- 第2編
- 第3章 - 新たな社会課題への対応 2020~2023
3 不祥事案の発生
議決権行使書の集計過誤事案
2020(令和2)年9月、東芝からの要請に基づいて、同社の議決権行使書集計業務について調査を行ったところ、集計業務の妥当性に検証を要する事態であることが判明。外部弁護士による調査および検証を行い、同年12月、今後の業務の適切性確保に万全を期すべく、新たな集計方法の導入を含めた再発防止策を策定、公表した。
〔1〕先付処理の不適切性について
三井住友信託銀行、東京証券代行および日本証券代行は、三井住友信託銀行の100%子会社である三井住友トラストTAソリューション(以下、TAソリューション)に集計業務を委託し、同社は日本株主データサービス(以下、JaSt)に対して当該業務を再委託していた。JaStでは、大量の議決権行使書を受領する繁忙月に、限られた時間内で集計業務を処理することを目的として先付処理 *1 を行っていた。本来、議決権行使書集計業務は、株主の意思を株主総会に伝達し経営に反映させる機能の一部であり、コーポレートガバナンスの根幹を支える業務だが、先付処理に関して、その不適切性が認識されていなかった。
先付処理が長年の実務慣行になっていたことから、東芝の調査依頼を受けた後も、集計業務の取り扱いの適切性に疑義を抱かなかったため、当初は事態の適切な報告を行うことができず、再調査により集計業務の不適切性の認識に至った。先付処理については、その運用を取りやめ、郵便局から実際に受領した日を基準に集計を行う方法に変更し、また議決権行使書の受領方法の見直し *2 も実施した。
JaStにおいて、例年3月、5月および6月の株主総会が集中する繁忙月に、大量の議決権行使書の集計を行う業務時間を確保するため、郵便局と調整のうえ、郵便局の所定の作業が完了する本来の配達日の前日に郵送物を受領し、本来の配達日の日付が記載された「交付証」の日付を基準に議決権行使書を集計していた処理を指す。先付処理の結果、議決権行使期限に受領した議決権行使書が集計対象外とされていた。
2021年3月に開催された証券代行受託先の株主総会より、それまでのJaStの事務センターを所管する郵便局からの配達により議決権行使書を受け取る方法から、新東京郵便局に私書箱を設置し、JaStにて議決権行使書を引き取りに行く方法に変更
〔2〕再発防止に向けた取り組み
当グループは、本事案においてJaStによる先付処理の法的問題点を長年検知できなかったことを踏まえ、実効的なモニタリングの仕組みを構築するともに、グループ会社や外部事業者に委託している業務に関するルールの適法性の検証において法務・コンプライアンス部門の関与を強化し、委託業務における法務面等のリスクの度合いやステークホルダーへの影響度合い等に応じて業務運営状況の管理をきめ細かく行う体制とした。また、内部監査について、法令等遵守態勢の有効性に一層重点を置き、グループ会社に対する監査を含め、実効性を高める体制とした。
当グループのバリューチェーンに含まれるすべてのステークホルダーに対するフィデューシャリー・デューティーの意識徹底を図るべく、グループ会社を含めた社員への教育・指導を拡充強化し、また、証券代行業務における対策として、三井住友信託銀行は合弁パートナーであるみずほ信託銀行とともにJaStと連携し、JaStの法令等遵守態勢の強化、JaStに対するモニタリング機能の強化に一層取り組むとともに、証券代行業務全般の業務プロセスにおける法的問題点等を主体的に検知するため、組織体制を強化した。さらに、第三者である弁護士・会計コンサルタントのサポートを受けて、議決権集計以外の業務プロセスについても関連する規程やマニュアル等について見直しを行い、業務の適切性の点検を進めた。
〔3〕議決権行使の電子化の推進
本事案の背景には、株主総会の開催日が集中する繁忙月に、大量の郵送による議決権行使、それに伴う膨大な集計業務があったことから、正確かつ迅速、また利便性の高い電子行使の普及に向けた取り組みを従来以上に促進した。
-
委託会社の電子行使の採用促進
タイムリーな行使状況の把握や議決権行使書返送に伴うコスト削減等のメリットの訴求、導入を促進するための提案など、採用会社の裾野拡大に向けた施策を推進する。
また、機関投資家の利用促進に向けて、東京証券取引所やICJ *3 等とも意見交換を行いながら、議決権電子行使プラットフォームの採用を促進すべく、委託会社に対し積極的な働きかけを行う。 -
個人株主の電子行使の利用促進
当グループが受託している委託会社の株主数ベースでは、すでに81% *4 の個人株主が電子行使を利用できる環境にあるが、電子行使やスマートフォンによるスマート行使の認知度が低いこともあり、2020(令和2)年、電子行使比率は18%、議決権行使比率は35%にとどまっていたため *5 、委託会社の協力を得ながら、行使期限まで何度も議決権行使をやり直せる利便性の訴求やQRコードを利用して簡単に議決権行使ができるスマート行使の認知度向上を通じ、個人株主の電子行使の利用促進を図った。この結果、2021年には電子行使比率46%、議決権行使比率41%に改善した。