- 第1編
- 第1章 - 信託制度の確立と発展 1922~1974
銀行業務の開始
信託各社は1948(昭和23)年8月2日に銀行業務を開始することとなったが、認可から業務開始までの期間はわずか1カ月、大蔵当局から銀行業務兼営の提言があったときから準備を開始していても2カ月弱であったため、短期間で慌ただしく体制を整えなくてはならなかった。
銀行業務の開始より、信託各社は預金業務に注力し、1年後の1949年9月末には信託6社合計の預金残高が金銭信託の残高を上回った。金銭信託の不振で苦境に立っていた信託各社にとって、銀行業務は重要な収益源となった。終戦直後から続いていたインフレのもと、長期貯蓄が敬遠されて短期預金を吸収できたうえ、大きな利ザヤが得られるようになったからである。
また、信託会社が兼営する銀行業務は、信託部門と結合することによって、特殊な性格を構造的に生み出した。貸出可能な金銭信託を擁する場合、銀行部門があれば金銭信託による貸出額はいったん自社の銀行預金に振り込まれ、一定の滞留、すなわち預金の創出を実現しうる。その預金はまさに金銭信託からの信用創造の結果にほかならなかった。
一方、信託会社による銀行業務の兼営は、金融制度上複雑な問題を生んだ。信託銀行は、「信託業法」に基づく信託会社ではなくなり、法的には「銀行法」上の銀行として都市銀行、地方銀行と同一になったが、そのなかで信託銀行=専業信託、信託部門を有する銀行=兼営銀行と区別する慣習が生まれた。その結果、大蔵当局は法的には区別し得ない両者を行政指導で区別する政策をとることになり、金融制度上幾多の摩擦・抵抗を惹起したのである。