- 第2編
- 第1章 - 専業信託銀行グループとしての挑戦 2011~2016
「株主・資本戦略のパートナー」への挑戦
信託銀行統合後の2012(平成24)年度、証券代行事業は、業界トップの受託基盤をベースに、質の高いコンサルティングなどによって株式実務・株主対策の戦略的パートナーとしての評価を向上させてトップブランドを確立し、事業を成長させることを事業モデルとした。そして3年後の2015年度に、上場会社受託社数でもトップとなるという計画のもと、目指す姿を以下のように掲げ、リレーションシップ・マネージャー(RM)と連携したクロスセル提案による委託替営業を推進した。

中期経営計画で目指す姿
2014年度には、2014年2月に策定された機関投資家向けの行動原則であるスチュワードシップ・コードを受け入れる機関投資家が増加し、IR・SRのニーズが高まるなど、資本市場の変化を受けて、企業の株主・資本戦略における課題・ニーズも変化したが、同領域では、証券代行業務のほかにもホールセール事業、受託事業などに信託銀行としてのソリューション機能が点在していた。
そこで、証券代行の受託基盤防衛や受託拡大、プロダクトのクロスセル展開などを主たる狙いとした収益モデルを「株主・資本戦略ソリューションモデル」と定義。同年度スタートの「中期経営計画(挑戦と創造)」では、営業モデル転換に向けた革新的取り組みとして、次のようなポイントを挙げた。
- 営業モデルの転換:従来の株式実務サポート中心の活動から脱却し、コンサルティング営業、クロスセルの徹底などによる「仕掛け・攻め」の営業モデルに転換
- 投資家(株主)・資本戦略ソリューションモデルの構築:資本市場における企業ニーズに対し、証券代行を起点とした事業横断的なソリューションを提供
当グループは、企業の成長ステージを、未上場、IPO直後の新興企業群、東証二部~東証一部上場の中堅企業、東証一部上場の時価総額5,000億円以上の大企業に分類し、ステージごとに経営課題とニーズを整理。2014年度には大企業のうち12月決算の企業10社をモデル企業として選定し、総務・IRライン向け株主・資本戦略ソリューション提案 *1 を試行的に実施し、この取り組みを通じて、各プロダクトの収益、各事業の連携を含めた提案の型づくりを行い、新たなサービスニーズなどについて検討した。また、新興企業に対するプライベートバンキングセールスなど、これまで十分な展開が図られていないクロスセル領域については、証券代行、総務リレーションシップ・マネジメント機能を活用し、クロスセルの強化を図った。
証券代行リレーションシップ・マネージャー(RM)が主体となってホールRMと連携し、企業経営陣との「株主・資本戦略会議」を開催。環境・社会型IRコンサルティングサービスをコア提案とし、個社ごとに内容をカスタマイズして提案した。

企業の成長ステージに応じた主な提供ソリューション
2015年4月には、6月のコーポレートガバナンス・コード(CGC)適用開始を見据えて証券代行コンサルティング部を事業横断部 *2 とし、「CGC総合サポート」「役職員インセンティブ」「委員会設置会社移行コンサル」「取締役会実効性評価コンサル」「役職員報酬制度コンサル」などの実践的かつ効果的なソリューションメニューにより、企業価値向上をサポートした。また同年10月にはIPO営業部を設置し、新規上場(IPO)を目指す企業に対し、準備段階の法律面でのコンサルティングに加えて、オーナー企業向けに法人・個人両面でのソリューションを提供することなどにより、IPOの実現をバックアップするとともに、証券会社、監査法人をはじめとする上場主要関係人向けのルート営業強化を図った。
2015年11月には日本郵政および傘下のゆうちょ銀行、かんぽ生命が東証一部へ上場、初回売出額は1.4兆円、株主数は100万人超となり、「21世紀最大の新規上場案件」といわれた。なお、株式売却収入は東日本大震災の復興財源と位置づけられ、数次にわたって売却が実施された。そして、2015年度の日本郵政グループ3社からの受託により、当グループは管理株主数で圧倒的なNo.1となり、あわせて事務品質とコンサルティング力においても、お客さまから高い評価を受けた。
なお、2012年3月には、アイ・アールジャパン(IRJ)が30数年ぶりに証券代行業務に参入した。証券代行業務はシステムの整備などに多額の投資を必要とする装置産業であり、それまで事業者は大手信託銀行とその傘下の企業などに限られていたが、2009年に株式電子化が実施され、委任状の争奪戦やファンドによる株式の大量取得が活発になったことを受け、IR・SRなどの既存事業との相乗効果を狙った。そして約10年のちの2021(令和3)年8月には、SMBC信託銀行がIRJと提携し、証券代行業務に参入することを公表。またこれを機に、三井住友銀行が主にIPOを志向する法人をSMBC信託銀行にも紹介することになった。

受託社数、管理株主数の推移