- 第1編
- 第2章 - 国際化・自由化と社会の多様化 1975~1990
2 顧客ニーズと業務の多様化
遺言信託の開始
1929(昭和4)年5月の信託業法改正により、「財産に関する遺言の執行」が信託の付随業務として加えられたが、戦前の「家制度」のもとでは遺言による財産処分は進まなかった。しかし、高度成長期に入って個人財産が次第に蓄積されるようになると、相続法や遺言による財産処分の慣習が定着し始めた。こうした状況に鑑み、三井信託銀行は、信託創業の理念にふさわしい本格的な財産管理業務の一つとして「遺言信託」 *1 を開発することとし、1969年9月、正式に取り扱いを開始する。遺言信託は、個人のライフサイクルに適合した財産計画およびそれに関連する各種の財産管理業務を顧客と一体となって作り上げるオーダーメイド商品として大きな反響を呼び、信託業務本来の姿を世間に認識させるうえで大きな効果を収めた。
その後、核家族化や高齢化の進展により、相続に際して家族間のトラブルを未然に防ぎ、自分の考えどおりに財産を分与するための大切な手段として遺言の必要性が再認識され、社会的な関心が高まったことを背景として、1984年3月には、住友信託銀行も遺言信託の取り扱いを開始した。
遺言信託には、遺言書の保管を主業務とする一般コースと、一般コースに加えて遺言を執行し遺産の処分まで行う特別コ―スがあり *2 、財務コンサルタントなどによる相談サービスをセットした。遺言書作成までのコンサルティング、公正証書を作成するときの証人立会サービス、遺言書の保管および希望者に対する遺産整理などのサービス、遺言執行(特別コースの場合)などを内容とする商品であり、近年では特に新たなサービスが展開され、広く活用されている。

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