三井住友トラストグループ

第1章

信託制度の確立と発展
1922~1974

第3章

金融激動と業界再編
1991~2010

第1編
第1章 - 信託制度の確立と発展 1922~1974

年金信託の登場と信託による社会福祉

日本の社会保障制度は、軍人や官吏の恩給、大正時代の健康保険法制定、太平洋戦争中の厚生年金保険制度発足などにさかのぼれるが、戦後、新憲法が制定され、国民の生存権や社会保障に関する国の責務が明確にされたのちに本格的に発展した。

米国では、第二次世界大戦後、民間企業の私的年金が急速に発展し、その多くが信託方式を採用して基金管理を行っていた。日本の信託業界でも1950(昭和25)年ごろからこれに着目し、年金信託方式の実現について研究を進めた結果、年金制度の発展のためには、米国のような税制上の優遇措置が前提になることが明らかになった。このため1957年以降、信託協会をはじめ関係各方面から、退職年金制度や企業年金課税に関する強い要望が継続して出された。これを背景に、政府の税制調査会は1961年12月、企業年金に関する税制の整備について答申し、翌62年3月31日に成立した改正法人税法により、企業年金制度に関する税制改正が実現、ここに適格年金制度 *1 が誕生することとなった。

適格年金制度の受託機関は信託銀行と生命保険会社に限られ、1962年7月から申請が開始され、以後信託銀行にとって最も得意とする業務分野として成長していくこととなった。年金の運用にあたっては、投資元本の保証されない株式等の割合に規制が設けられたが、インフレヘッジを目的に株式に投資する新しい合同運用金銭信託が検討された。信託業界は総力を結集してこの新業務の基盤を整え、1963年5月に年金基金だけを購入者とする「年金投資基金信託」(年金信託)が発足した。

次いで1966年10月には、厚生年金保険の老齢給付のうち報酬比例部分を代行し *2 、企業独自の上乗せ給付を行ってより手厚い保障とする厚生年金基金(調整年金)制度が創始され、年金信託は、両制度における基金の運用に貢献しつつ、信託銀行の重要な柱として順調に成長していった。

また、年金信託が拡大していく1960年代後半には、従業員福祉がクローズアップされていた。財産形成信託がその代表例であるが、住友信託銀行が1970年4月に大建工業との間で開始した「従業員福祉信託」は、その先駆をなすものであった。これは、企業従業員の退職後の生活設計ないし財産形成の一助とすべく、年金信託と同様、原則として企業と従業員とが一定の基準によって拠出を行い、企業を委託者、従業員を受益者とする他益信託形式の金銭信託で引き受け、これを株式その他の有価証券で運用、従業員の退職時に一括して支払うものであるが、年金信託と異なる点は、年金数理計算を必要とせず、企業拠出が企業の利益に応じて弾力的に定めうるものとして制度設計することであった。信託業界としても研究を進めてきており、1970年7月に税制上の優遇措置を盛り込んだ適格財産形成信託創設の要望書を大蔵大臣に提出し、信託協会内に「財産部会」を設けて具体化を急いだ。

次いで1971年6月1日「勤労者財産形成促進法」が公布施行され、翌72年1月1日から税法上の優遇措置が実施されて、財産形成促進制度がスタートした。その柱の一つが「勤労者財産形成制度」であり、元本100万円を限度として利子等が非課税とされて急成長を示した。また、この業務は長期運用、煩雑な事務処理を得意とする信託に適したもので、信託銀行の実績は他の金融機関を圧倒した。なお、財形貯蓄では住宅ローンの有無、難易が財形商品としての魅力に関係しており、信託銀行の場合、貯蓄残高の伸びとともに住宅ローン残高も拡大した。

このほか、1969年には住友信託銀行が従業員持株信託に先鞭をつけた。従業員持株信託は、企業内に設けられた従業員の持株会が信託銀行と契約を結び、積立金を信託元本として、信託銀行がその企業の株式を証券市場から購入し、その実質的な受益権は持株会に属する仕組みである。企業にとっては、安定株主づくり、労使関係の安定に役立ち、従業員にとっては、財産形成に資するほか、信託銀行にとっても、年金信託、財産形成信託とともに、企業との結び付きを強化するものとして期待された。

2001年の確定給付企業年金法および確定拠出年金法の制定に伴い、2012年3月末で廃止された。

2002年4月の確定給付企業年金制度の創設時に代行部分の返上が認められたことにより、厚生年金基金の多くが代行部分のない確定給付企業年金へ移行した。

企業年金信託パンフレット(三井信託銀行)

企業年金信託パンフレット(三井信託銀行)

適格年金パンフレット(住友信託銀行)

適格年金パンフレット(住友信託銀行)

年金信託受託残高の推移

年金信託受託残高の推移

年金信託受託残高の推移

年金信託受託残高の推移
主要信託銀行の年金信託受託残高

主要信託銀行の年金信託受託残高

主要信託銀行の年金信託受託残高

主要信託銀行の年金信託受託残高
信託銀行各社の財形貯蓄契約状況(1975年9月末)

信託銀行各社の財形貯蓄契約状況(1975年9月末)

信託銀行各社の財形貯蓄契約状況(1975年9月末)

信託銀行各社の財形貯蓄契約状況(1975年9月末)
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