三井住友トラストグループ

第1章

専業信託銀行グループとしての挑戦
2011~2016

第2編
第1章 - 専業信託銀行グループとしての挑戦 2011~2016

アベノミクスと市場拡大

2012(平成24)年12月、民主党・国民新党連立内閣に代わり、自由民主党・公明党連立の安倍晋三内閣(第二次)が誕生した。安倍内閣は、長引くデフレからの早期脱却と日本経済の再生に向けて、①大胆な金融緩和、②機動的な財政政策、③民間投資を喚起する成長戦略、という3つの政策を「3本の矢」として打ち出した。これら一連の経済政策は「アベノミクス」と呼ばれた。日本経済がバブル崩壊後、低成長を続け、「失われた20年」と称され、特に長引くデフレに苦しんできたことが背景にあった。

第一の矢である「大胆な金融緩和」は、2013年1月、政府と日本銀行の政策連携に関する共同声明「デフレ脱却と持続的な経済成長の実現のための政府・日本銀行の政策連携について」で発表された。日銀は、物価安定の目標を前年比上昇率で2%と定め、金融緩和を推進することにより、目標の早期実現を目指すとした。2013年4月、黒田東彦(はるひこ)日銀総裁は、「異次元緩和」と呼ばれる「量的・質的金融緩和の導入」を発表。これはマネタリーベースおよび長期国債・ETFの保有額を2年間で2倍に拡大し、長期国債買い入れの平均残存期間を2倍以上に延長するというもので、翌2014年10月にはその第二弾として、マネタリーベースの年間増加額を60~70兆円から80兆円に拡大し、長期国債の保有残高が年間50兆円から80兆円に増加するように追加買い入れを行うこととした。また、長期国債買い入れの平均残存期間を7~10年に長期化することに加えて、ETFやJ-REITの買い入れをそれまでの3倍に増額。その結果、11月には日経平均株価が7年ぶりに1万7,000円台を回復した。

第二の矢「機動的な財政政策」については、2013年1月、「日本経済再生に向けた緊急経済対策」が閣議決定された。復興・防災対策、成長による富の創出、暮らしの安心・地域活性化などの施策が盛り込まれ、10兆円規模の経済対策となった。第三の矢である「民間投資を喚起する成長戦略」では、同年6月、「日本再興戦略―JAPAN is BACK-」が閣議決定されたのち、「3本の矢」により経済の好循環が動き始めたとしたうえで、これを一過性のものに終わらせず、持続的な成長軌道につなげるため、「『日本再興戦略』改訂2014―未来への挑戦―」を閣議決定した。

このような一連のアベノミクス政策により、実質GDPは2年間で2012年度対比2.4%成長 *1 、株価は政権発足から2015年3月末までに約90%上昇、「貯蓄から投資へ」の流れを加速させるために2014年1月にスタートした「NISA(少額投資非課税制度)」の総買付額も同年12月末時点で約3兆円の規模に成長するなどの成果が見られた。

また、2013年、2014年改訂版における「日本再興戦略(JAPAN is BACK)」では、「日本産業再興プラン」の具体的施策としてコーポレートガバナンス(企業統治)の強化が掲げられ、これを官民挙げて実行するうえで「コーポレートガバナンス・コード」 *2 が導入され、2015年6月から適用された。次いで、2015年6月に閣議決定された「『日本再興戦略』改訂2015」で新たに掲げられた「攻めのコーポレートガバナンスの更なる強化」では、スチュワードシップ・コード *3 の策定、コーポレートガバナンス・コードの策定を踏まえ、企業の「未来に向けた投資」を決断し、「攻めの経営」の展開を後押しするために、取締役会の役割や取締役の責任の範囲を明確化したもので、持続的成長に向けた企業と投資家の対話促進なども求める内容だった。

なお、日銀は2016年1月、異次元緩和の第三弾ともいうべき、追加金融緩和策を決定し、2月より、民間金融機関が日銀の当座預金に一定以上のお金を預けた際に手数料を払う「マイナス金利政策」を実施した。デフレ脱却に向けた断固とした姿勢を示すものだが、発表を受けて市場は乱高下した。

2022年度国民経済計算(2015年基準・2008SNA)

上場企業が行う企業統治においてガイドラインとして参照すべき原則・指針。2018年6月、政策保有株削減の促進、経営トップの選任・解任手続きの透明性、女性や外国人の登用による取締役会の多様化を求める内容の改訂がなされた。その後、新型コロナウイルスの感染拡大やDX(デジタルトランスフォーメーション)推進の動きなどを経て、2021年6月、二度目の改訂が行われ、企業の持続的成長を促すため「人的資本」に関する情報開示についての項目が追加されている。

スチュワードとは執事、財産管理人の意味を持つ英語で、スチュワードシップ・コードは、金融機関による投資先企業の経営監視などコーポレートガバナンスへの取り組みが不十分であったことがリーマン・ショックによる金融危機を深刻化させたとの反省に立ち、英国で2010年に策定され、これを参考に金融庁が2014年に日本版を策定した。

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