三井住友トラストグループ

第1章

信託制度の確立と発展
1922~1974

第3章

金融激動と業界再編
1991~2010

第1編
第3章 - 金融激動と業界再編 1991~2010

3 金融システム改革と金融再編

日本版ビッグバン

金融システムの保護を目的とするさまざまな規制が原因となって停滞していた日本の金融市場では、市場機能と透明性を重視し、直接金融型を指向する世界の金融システムの潮流から立ち遅れつつあるとの危機感が高まった。高齢化の進む日本において経済が活力を保っていくためには、1,200兆円にも上る個人金融資産が有効かつ効率的に運用される場が必要であり、次代を担う成長産業へこれらの資金を供給していくことが重要であった。また、世界に相応の貢献を果たしていくためには、日本から世界に円滑な資金供給をしていくことも必要であった。

こうした事情を背景として、金融システム改革、すなわち日本版ビッグバンの必要性が認識されるようになり、1996(平成8)年11月、橋本内閣は「我が国金融システムの改革―2001年東京市場の再生に向けて―」という改革案を提示。2001年までに、不良債権処理を進めるとともに、日本の金融市場がニューヨーク、ロンドン並みの国際金融市場となって再生することを目標として掲げた。改革案では、抜本的な市場改革を進めるための三原則として、「Free、Fair、Global」が示された。Freeとは、市場原理が働く自由な市場であり、参入、商品、価格等の自由化を図るもの、Fairとは、透明で信頼できる市場であり、ルールの明確化、透明化、投資家保護を図るもの、Globalとは、国際的で時代を先取りする市場、という意味であり、グローバル化に対応した法制度、会計制度、監督体制の整備を図るものであった。そして具体的検討項目として、次のような事項が掲げられた。

  1. 銀行・証券・保険分野への参入促進
  2. 長短分離などに基づく商品規制の撤廃、証券・銀行の取扱業務の拡大
  3. 各種手数料の自由化
  4. 為銀主義 *1 の撤廃
  5. 資産運用業務規制の見直しとディスクロージャーの充実・徹底
  6. 自己責任原則の確立のための十分な情報提供とルールの明確化
  7. ルール違反に対する処分の積極的発動
  8. グローバルな監督協力体制の確立

これらを利用者側から見れば、幅広いニーズに応える商品が登場し、銀行、証券等の取扱業務が拡大することによって、貯蓄をより多様に、より容易に運用でき、使い勝手がよくなるものと考えられた。

以上のような指示を受けて1997年6月に金融制度調査会、証券取引審議会、保険審議会により具体的改革案がまとめられ、改革全体の具体的措置とスケジュールが明確にされた。同時に金融制度調査会は「我が国金融システムの改革について―活力ある国民経済への貢献―」と題する報告書を取りまとめ、商品・業務・組織形態の自由化・多様化、市場・取引のインフラおよびルールの整備、金融システムの健全性の確保を課題として提示した。こうして1998年6月には日本版ビッグバンを具体化する「金融システム改革のための関係法律の整備等に関する法律」(金融システム改革法)が成立し、銀行における投資信託の窓口販売の解禁、銀行・証券・保険間の相互参入の促進、株式売買委託手数料の完全自由化などが実施された。

また1990年代後半には、金融機関が不良債権処理や金融システム改革への対応に追われるなか、大手証券会社や大手銀行による総会屋の利益供与など商法違反事件や証券取引法違反事件が明るみになり、幹部職員が逮捕されるという、日本の金融業界を揺るがすような不祥事が発生。金融システム改革が叫ばれている重要な時期にあって、これらの事件により金融業界、証券業界に対する信頼は大きく失墜した。

日本版ビッグバンを目前に控え、従来以上に自由化に見合う厳格な自己規律に裏打ちされた、自己責任に基づく業務運営を徹底していかなければならなくなったことを踏まえ、金融各社はコンプライアンス、リスク管理体制の整備を進めた。

原則として対外取引が禁止され、認可された取引においても外国為替公認銀行 (為銀)を通じて行う必要があったこと

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