- 第1編
- 第3章 - 金融激動と業界再編 1991~2010
7 中央三井トラスト・グループと住友信託銀行の経営統合
経営統合への模索
リーマン・ショックの影響のもと、中央三井トラスト・グループと住友信託銀行は、それぞれが経営基盤の強化を目指してさまざまな道を模索した。
住友信託銀行は、銀行再編が進み、プレーヤーの数が減少するなかでも独立経営を維持してきたが、事業環境の激変により、将来に対して危機感を抱くようになった。リーマン・ショックの起きる2008(平成20)年に社長に就任し、経営統合の交渉にあたることになった常陰均(つねかげ・ひとし)社長は、「信託らしさ」「住信ならでは」ということに徹底的にこだわっていた。「信託らしさ」とは、受託者精神をベースに顧客の側に立ち、一つひとつ丁寧でベストなソリューションを提供していくビジネスモデルを指す。この根底には、信託は、委託者と受託者の間に厚い信頼関係がなくては成立しないビジネスだということがあった。また、「住信ならでは」とは、顧客のニーズに多様な専門性を結び付け、付加価値を創造し、素早くソリューションを提供するという、多様性、 創造性、スピードを指していた。
一方、中央三井トラスト・グループを率いる田辺和夫社長は、「信託業務をコアとする高度な金融サービス・商品を提供する『トラスト・リーディング・バンク』として透明性の高い効率的な経営の下で顧客の期待に応え広く社会に貢献する企業グループを目指す」ことを2001年の機構改革において表明していた。
このように、統合の検討の前から、すでに両社の方向性は一致していた。旧財閥の枠組みを超えた新しい金融グループが形成される潮流のなかで、互いにメガバンクグループの傘下には入らず、中立的な立場で「信託ならでは」の独自路線を追求してきた両社の間において、統合への機運が高まっていったのは自然な流れといえる。
重点分野が異なるとはいえ、それまで同じ市場で競合してきた両社であったが、統合相手としての相性を考えた場合、共に受託者精神をベースとし、高い専門性とコンサルティング力でニーズに応えてきたという点では「親和性」があった。また、三井グループ、住友グループという法人顧客基盤や首都圏、関西圏、中部圏を中心に全国に広がる個人顧客基盤に関しては重複が少なく、「補完性」も高かった。したがって、両社は互いを経営統合によって「攻め」と「守り」の両面で規模や資源を大幅に拡充することができ、「補強性」を担保しうる「唯一無二のベストパートナー」と考えたのであった。
両社は2004年ごろにも経営陣の間で合併を意識した会話を続けていた。2002年9月には日本トラスティ・サービス信託銀行(現在の日本カストディ銀行)において共同事業化を遂げていたが、このころ中央三井信託銀行は発足後わずか数年しか経過しておらず、「三井」「住友」の組み合わせで統合する流れを感覚としては互いに認めつつも、合併を急ぐまでの理由はなく、統合比率といった事務的な段階までは話が進まなかった。そして、ここに機が熟し、確固たる決意と使命感のもと、結実したのである。

三井住友トラスト・グループのステイタス