- 第1編
- 第3章 - 金融激動と業界再編 1991~2010
信託事業による社会貢献~CSRの定着
2000年代には広く一般企業の間でCSR活動が推進されるようになったが、「社会奉仕的な財産管理機関」としての側面を持つ信託業界では、草創期の経営陣の思想や行動に見られるように、古くから社会貢献を重要な指標としていた *1 。1970年代半ばに信託業界の働きかけによって取り扱いが開始された公益信託や特定贈与信託(福祉信託)は「信託の原点」ともいわれ、信託そのものの社会貢献的な意義に加え、これらの制度が広く利用されることで社会貢献活動が促進されるという機能もある。
三井住友トラスト・グループ前身各社では、社会的価値の創造が企業価値の向上につながるという理念のもと、2000年代前半にCSR推進のための専門部署を創設し、先進的な活動を推進。経営計画の個別テーマにも組み入れられるようになった。なかでも先陣を切って2003(平成15)年6月に「社会活動統括室」を新設した住友信託銀行では、社内報「信泉」で連続15回にわたってCSRを特集(2003年12月号~2009年7月号)。CSRの意義を謳いつつ具体的な活動を紹介し、社内に浸透させた。また、この時期には環境金融商品を「環境(エコ)問題を、信託(トラスト)を活用して、解決(ソリューション)する」商品と位置づけ、エコ・トラステューション(Eco Trsutution)と名づけて積極的に商品開発を推進した。
この間、地球環境問題が深刻さを増すなか、2006年には国連責任投資原則(PRI:Principles for Responsible Investment)が提起され、ESG(Environment、Social、Governance)は経営・投資の指標となり、企業の持続的成長における重要な要素と位置づけられた。
その後、2011年に三井住友トラスト・グループが発足したのちは、長い歴史のなかで育まれた信託の思想を生かしてESGやSDGsに取り組み、気候変動、超高齢社会をはじめとする多くの社会課題に対応しうる信託商品を新たに生み出し、事業活動において社会貢献活動を実践している。