- 第2編
- 第2章 - The Trust Bankへの進化――「第2の創業」 2017~2019
事業を通じたサステナビリティへの取り組み
当グループは、専業信託銀行グループの機能を生かし、お客さまが直面する社会的な課題の解決に向けたさまざまなソリューションを提供してきた。2018(平成30)年度には五大テーマを「気候変動問題」「サステナブル(ESG)投資」「自然資本(生物多様性問題)」「環境不動産」「超高齢社会問題」に整理し、各分野における取り組みを推進。2019年度には、サステナブル金融の強化を最重要課題とし、下表に挙げた取り組みを推進するとともに、新たに「投資家視点と当社ノウハウを生かしたESGコンサル」と「ポジティブ・インパクト創出商品の開発と展開」の拡大・強化に注力した。

サステナビリティ業務の3つの柱とサステナブル金融強化策の全体像(2019年)

サステナブル金融の取り組み(2019年度)
〔1〕気候変動問題解決に向けたソリューション展開
当グループは、気候変動問題への対応が企業価値と持続可能な社会の構築の双方にとって重要な課題であると認識し、気候変動問題の解決に資するソリューション事業を展開してきた。2018(平成30)年9月には、海外市場において当グループ初のグリーンボンド(発行金額5億ユーロ)を発行。国内では、再生可能エネルギー発電プロジェクト(太陽光発電プロジェクト)へのプロジェクトファイナンス債権を裏付けとする自己信託 *1 受益権を発行し、当該受益権を販売するスキームを組成したほか *2 、J-REITであるユナイテッド・アーバン投資法人(UUR)のグリーンビルディング *3 に資金使途を限定した貸付金で運用する合同運用指定金銭信託 *4 「UURグリーントラスト」を組成するなど、ESG投資に積極的でありながらアクセスできなかった投資家に対し、新たな投資機会を提供した。また、2020(令和2)年3月、三井住友信託銀行は、海運業界の気候変動リスクに対する金融機関の取り組みとして設立された「ポセイドン原則(The Poseidon Principles) *5 」に、アジア諸国の金融機関として初めて署名した。
委託者が自ら受託者となる信託で、委託者兼受託者が一定の目的に従い自己の有する一定の財産の管理または処分その他の目的の達成のために必要な行為を自らすべき旨の意思表示を公正証書その他の書面または電磁的記録により行い、信託を設定すること。信託宣言とも呼ばれる。
グリーンボンド原則に準拠し、日本格付研究所のJCRグリーンボンド評価において、最高位である「Green1」の評価を取得した。
グリーンボンド原則、グリーンローン原則または環境省のグリーンボンドガイドラインに提議されているグリーンプロジェクトのうち、地域、国または国際的に認知された標準や認証を受けた不動産
金銭を信託財産として信託銀行などに預け、その金銭を信託銀行が約款に指定された運用範囲内で合同して運用し、その収益は信託金額に応じて支払われる商品
国際海事機関(IMO)が採択した国際海運から排出される温室効果ガス(GHG)削減目標やその実現のための対策等を包括的に定める「GHG削減戦略」に対する民間金融機関主導の取り組みとして、2019年6月に船舶ファイナンスを手がける欧米主要金融機関11行により発足。同原則に署名した金融機関は、船舶ファイナンスの対象船舶について毎年CO2排出削減努力の達成度を評価し、各行の船舶ファイナンスポートフォリオ全体のCO2排出削減努力貢献度を算出し公表する。
〔2〕Climate Action 100+への参画~資産運用における気候変動問題への対応
三井住友トラスト・アセットマネジメント、日興アセットマネジメントは、機関投資家がグローバルに連携して温室効果ガスの排出量の多い企業100社以上を世界中からリストアップし、5年間にわたって協働エンゲージメントを行うClimate Action 100+に参画している。当イニシアティブは、エンゲージメントにより温室効果ガス排出量の抑制、気候関連の財務情報の開示、気候変動に関するガバナンスの改善などを対象企業に働きかけるものである。両社は、温暖化効果ガス排出量が多いアジア・日本企業に対する協働エンゲージメント活動において先導的な役割を発揮した。
三井住友トラスト・アセットマネジメントは、これまでも温室効果ガス排出量の多いセメント・紙パルプ・電力・石油等の産業への独自エンゲージメントを行ってきたが、Climate Action 100+による協働エンゲージメントについても、海外企業を含む複数の対象企業のリード役となるなど積極的に取り組んでいる。
また、日興アセットマネジメントは、2018(平成30)年10月、アジアの運用会社としては初めてグローバルな機関投資家が協働し気候変動に関する課題に対峙する「The Investor Agenda *6 」が掲げる4つの分野、「情報開示」「エンゲージメント」「政策提言」および「投資」の支援を表明している。Climate Action 100+への参画は「エンゲージメント」の一環であった。
2018年9月、国連環境計画金融イニシアティブ(UNEP FI)、国連責任投資原則(PRI)、CDP(Carbon Disclosure Project)と気候変動に関するグローバル投資家連合(GIC:Global Investor Coalition on Climate Change)を構成する4機関(IIGCC:Institutional Investors Group on Climate Change/AIGCC:Asia Investor Group on Climate Change/IGCC:Investor Group on Climate Change/Ceres:Coalition for Environmentally Responsible Economies)により発足。パリ協定の2℃目標(地球の平均気温の上昇を2℃未満に抑制)達成に向けて投資家が起こすべき行動をまとめたガイダンス。
〔3〕ポジティブ・インパクト・ファイナンス
2019(平成31)年1月には、UNEP FI(国連環境計画・金融イニシアティブ)が提唱した「責任銀行原則」(PRB)への支持を表明すると同時に、UNEP FIが主導するポジティブ・インパクト・イニシアティブに参画し、海外の参加メンバーとも協議を重ねながら評価分析ツールの構築などを積極的に推進。そして同年3月には、UNEP FIが提唱するポジティブ・インパクト金融原則 *7 および同実施ガイドラインに基づき、先駆的な取り組みとして、不二製油グループ本社との間で、ポジティブ・インパクト・ファイナンス(PIF/資金使途を特定しない事業会社向け投融資タイプ)の融資契約を締結した。このタイプの取り組みは世界初(当社調べ)であり、当社が支持表明を行ったPRBの取り組みの一環でもあった。
PIFは、企業活動が経済・社会・環境にもたらすインパクト(ポジティブな影響とネガティブな影響)を包括的に分析・評価し、ネガティブ・インパクトの低減とポジティブ・インパクトの増大についての目標を設定のうえ、企業のSDGs達成への貢献度合いを企業が評価指数を活用して具体的に開示。その実現に向けた継続的なエンゲージメントを重視したファイナンスの取り組みである。2019(令和元)年度、当グループは、PIFをサステナブル金融強化策の一つに加え、企業向けトータルソリューションサービスとして戦力を投入した。
SDGsの達成に向け、金融機関が積極的な投融資を行うための原則として、2017年1月に策定された。資金提供先企業のネガティブな影響を軽減し、現実的かつ信頼性のある方法でポジティブな影響を高めるための資金提供のあり方を定めており、「定義」「枠組み」「透明性」「評価」の4つの原則で構成されている。
〔4〕ESG・統合報告書コンサルティング
世界的なESG投資拡大のなか、国内においても、スチュワードシップ・コードの導入に伴う投資家との健全な対話を行う土壌の浸透、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)のESG投資開始など、企業と資本市場のインベストメントチェーンは大きな変化を迫られた。
2019(令和元)年度には、「ESG・統合報告書コンサルティング」を五大テーマの「サステナブル(ESG)投資」から分離。アナリスト等の運用業務に長く携わってきた担当者の「機関投資家の視点」と自身が発行体企業として実践してきた「サステナビリティ推進の視点・経験」を生かし、サステナブル経営推進における要諦である「情報開示」「エンゲージメント」「経営への統合」のサイクルをトータルでサポートした。
なかでも地銀向けコンサルは、①情報提供(ESG勉強会)、②ESG情報取組分析、③マテリアリティ・マネジメント支援、④ESG情報開示/統合報告書作成支援、⑤ESG投資家対応支援をメニューとして戦略的展開を図った。