設立趣意書本文内の〔 〕は訳注
三井信託株式会社

初代取締役会長
團 琢磨

初代代表取締役会長
米山 梅吉

設立趣意書
設立趣意書(現代語訳)
国民経済の発達に伴い財産の蓄積が進み、同時に、社会の事情はいよいよ複雑になり、産業の種類もまた千差万別となった。こうした状況に対応し、うまく財産の安全・確実性を図りながら利殖の目的を達成するのは決して容易なことではない。経済事情に精通していなかったり、専心して研究する時間がなかったり、あるいは法律上周到な用意ができていないなどの理由により、投資の方法に欠陥があったり、投資の目的物の選択を誤ったり、もしくは資産管理を任せるべき人物の選定を間違えたりし、種々の危険に遭遇することになる。ただ期待した利益を得られないだけではなく、その元本をも損失して不測の損害を招き、ついに失望落胆するという事態に陥る例も少なくない。こうしたことから、個人および団体の財産の安全・確実性ならびに利殖の目的を達成するため、各人各種の事情に応じて、その資産運用の顧問となり、または財産の管理処分の受託者となり、もしくはこれに伴う出納の代理人となり、法律上および経済上、最も安全かつ有効に、そしてまた組織的にこれらの委託を全うすべき信用機関〔=信託会社〕を必要とするに至った。
欧米先進国においては早くから有力な信託会社が発達したが、特に米国においてこのような信託事業が大きく進歩発達したことは決して偶然ではない。まさに経済的進化の趨勢に従い、社会の要求に応じた結果であって、経済構造が複雑になり、富の蓄積が増大するに従い、ますますその必要性を痛感している。資産運用において個人の不足を補い、同時に社会経済上に資する効果があることについて、多くを語る必要はない。我が国においても近年、信託会社の著しい勃興が見られたが、一つには、これまで信託に関する法律制度の整備がなされていなかったこと、一つには、それらの組織や経営が不完全だったことにより、信託会社としてまだ充分な実績をあげるには至っておらず、遺憾なことであった。しかし幸い昨年、信託に関する法律が新たに制定され、本年1月1日施行に至り、法律上、新たな基礎の上に立ち、信託会社の経営が促進されることとなった。これにより、同事業は新たな時代を迎えることとなったのである。
一方において商業的活動を促進する動的資金の源泉である金融機関としての銀行とあいまって、社会の静的資財の運用利殖機関としての信託会社の存在は、急速に進歩する経済社会の必然の産物である。両者はもとよりその営業の範囲・機能が異なり、資金運用の期間にもおのずから長短の別がある。両者が互いに競争を避け、提携協力することは、一国の経済組織を充実させ、その金融を支障なく流通させるため欠くことのできない機能であり、産業上、金融上の二大信用機関として各々固有の機能を発揮すべきである。そして、しっかりとこの新法を運用し、〔信託会社という〕機関を活動させることをもって公衆の委嘱に報い、その要求に対して充分に満足してもらうには、偏に完全な組織と信用を築いて待たなければならない。今我らは上述の理由と時勢の要求に鑑み、ここに本信託会社を設立し、我が国の経済社会に貢献していくことを誓うものである。
大正12年12月
住友信託株式会社

初代社長取締役
住友 吉左衞門

初代副社長兼常務取締役
吉田 眞一

設立趣意書
設立趣意書(現代語訳)
古代「ローマ」の国に芽生え、中世英国において発達した信託制度は、近年、米国に輸入されると、自ずと天与の資源と固有の国情〔旧イギリス植民地から発展したこと、西部開拓のための資金調達を必要としたこと〕に培われて事業として著しい発達を遂げ、信託業、信託会社の勃興を見るに至りました。この遠い淵源と沿革とを持つ信託制度は、時代の要請によって最近わが国にも移植され、大正11〔1922〕年に信託法および信託業法が制定されるに至り、わが国の財産制度は、これにより、まさに新しい時代を迎えることとなりました。われわれは、この法律をよりどころとして、このたび大阪市に住友信託株式会社を設立し、信託業を経営しようと計画しました。そして、われわれの信託会社設立の目的は、これによって少しでも国家、社会に奉仕し、国民経済に貢献したいという意思にほかなりません。以下にこの目的の大要を述べ、広く同志の方々のご協力を願う次第であります。
まず信託の基本的な考え方を述べますと、そもそも自分の財産は自分自身で管理し、利殖するのが当然ですが、もしこれを他人に依頼するなら、一般には、代理や寄託という〔民法に定められた〕制度を利用することによって、その目的を達成することができるのであります。ところが、同じように他人に依頼する場合でも、代理や寄託から一歩踏みこんで財産の名義そのものを他人〔依頼する相手〕の名義に切り替えることがあります。例えば、法人格のないクラブや会などが所有する不動産を、その代表者または個人の名義で登記するような場合、または、種々の事情によって自分の金銭を便宜的に他人の名義で預金しているような場合がそれにあたります。このような場合において、依頼を受けた他人は、外部に対してはその財産の名義人ですが、もともとその財産は買い受けたものでも贈与されたものでもありませんから、いずれはすべて利益とともに元の名義人または特定の人に返還しなければならない立場にあります。これがいわゆる信託の関係であります。そして、こうした事実を新たに財産上の制度にしたものが信託であり、このことを定めた法律が信託法であります。
次に、信託の要点について簡単に述べますと、第一は、前に記した信託の考え方によって明らかなように、財産の所有者〔委託者〕が、他人に依頼して財産の管理、利殖を図る目的のために、その名義を他人〔受託者〕に切り替えることであります。同じ目的であっても、名義を切り替えることが、信託と、従来のわが国の財産制度における代理、寄託との根本的な相違点であり、これこそが信託の真髄であります。名義を切り替えることによって、法律〔信託法〕は、信託した財産〔信託財産〕に対して、信託を依頼した人〔委託者〕の債権者であっても、その権利が信託以前に発生しているものでないかぎり、強制執行も競売もできないと定めています。また委託者と依頼を受けた人〔受託者〕との関係についても法律は種々の規定を設け、信託財産を保護しています。例えば、受託者の信託に関係のない債務について、債権者は、信託財産を差し押さえ、競売に付し、または債務と相殺することはできません。また受託者が、委託者の意思に反して不法に信託財産を第三者に売り渡した場合には、委託者は買い手からそれを取り戻すことができます。もちろん、これらのためには、その財産が善意をもって信託され、信託財産であることを登記もしくは登録しなければなりません。また信託財産は、受託者の相続人に移転しないことはもちろん、受託者は自分の固有の財産と信託財産を別にして管理しなければなりません。以上のとおりでありますから、信託財産は、全く安全な場所に置かれたものということができるのであります。
次に、信託の第二の要点は信任であります。ことわざにも、「金銭に親子はない」と言います。財産関係について他人を信用すること、他人に信用させることは、ともになかなか容易なことではありません。ただ単に他人を代理人とすることについても、余程の信任を持たなければなりませんが、ましてや、さらに一歩進めて、他人に財産の名義まで切り替えて信託するに至りましては、委託者は受託者に対して徹頭徹尾絶対の信任を置き、一方、受託者は最善至高の信義、誠実をもってこれを行うのでなければ、決して信託は成立するものではありません。すなわち、信託の根本要素は、どこまでも信任と誠実でありまして、自ずと「信託制度は信用制度の最後の産物なり」と言わなければなりません。
次に、信託業の使命について述べますと、前述のとおり自分の財産は自分自身で管理、利殖するのが当然でありますが、世の中には、婦人や幼児のように財産を管理、利殖するだけの十分な知識・能力を持たない人、または知識・能力はあっても仕事が忙し過ぎて利殖を図る余裕のない人、その他種々の事情によって自分で財産を管理、利殖できない人が大勢おられます。もっとも、この人たちには夫、親権者、後見人、あるいは執事、差配、顧問などがあり、それぞれ財産を管理、利殖していますが、社会の進歩や経済の発達につれ、これらの方法だけでは種々の不便、不利が増すばかりでなく、世間にはこうした管理人等によって大切な財産を使い果たされたといった惨事も少なくないのであります。要するに、従来の財産制度のままにしておくと、自分で財産を管理、利殖できない人は、時代の変化につれてますます生活の安定を脅かされることとなり、せっかく作り上げた財産を、安心して子孫に遺すこともできなくなり、ついには先祖の祀りは絶え、子孫は路頭に迷い、わが国の家族制度が廃れてしまわないともかぎりません。もし、このようなことになると、これは単に一個人の問題ではなく、まさに社会全体の大問題であります。また、こうした財産は、商工業者の営業資金などとは違って活用されていません。財産をただ死蔵して経済活動に用いないことは国民経済から見て非常に残念なことであります。以上の問題を解決し、あるいは予防するには、どうしても、時勢にあった新しい財産制度が必要になってまいります。信託制度、信託業が最近わが国に移植されたことは必然であったと言わなければなりません。
信託の根本要素ならびに信託業の目的・使命は以上に述べたとおりであり、信託業は真に社会が成り立つうえで、なくてはならない事業であります。
この意味において、信託業の経営は、かりそめにも営利のみを目的になすべきものではなく、主として社会奉仕の心をもってなすべきことが当然であります。わが国の法律〔信託法〕において、信託は無償を原則とし、信託を営む信託会社だけが報酬を受けることを認めていることを見ましても、これを推し量ることができるのであります。そしてわが国の信託業法は、信託業の経営を会社、しかも株式会社に限定しておりますが、その理由は、会社は個人のように感情に走ることもなく、病気にかかることもなく、死亡することもなく、また個人よりも一般に巨額の資本を有し、営業が組織的であり、その他、社会経済の事情について豊富な知識と経験を有するなどの長所があり、しかも株式会社は、他の会社組織と比較して多数の出資者を擁し、さまざまな監督機関が整備されているなどの長所もあり、信託の要素である信任と、信託業の使命とを十分に発揮し、全うできるからであります。このようなわけで、今ここに一大信託会社が設立され、最高の信義、誠実をもって経営するならば、一方で、財産の安全確実な管理、利殖の機関となって社会の健全な発達を助け、他方、銀行とともに、かつ銀行とは異なる目的と機能を有する一大金融機関として、国民の経済活動を促進することは疑う余地のないところであります。
信託業は社会奉仕の事業であり、信託会社は社会公益の機関でありますから、われわれは微力ながら、ここに信託会社を設立しようと計画しました。
そして、信託業および信託会社の固有の性質はこのようなものですから、少数の株主によって設立、経営されるべきものではなく、広く有志の方々に関わっていただくことが最も望ましいことです。われわれは、この信託会社設立に関し、同志の皆さまにご尽力をいただくことを切にお願い申し上げるものであります。
これまで述べましたように、信託会社は、単なる営利の目的で設立、経営されるべきものではなく、かつ絶対の信任と最高の誠実を根本としていますから、その基盤は最も強固・堅実であり、経営は最も安全・確実でなくてはなりません。ですから、われわれの信託会社でも当初の1、2年の間は株主への配当を行わない予定であります。しかし、信託会社は、信託本来の業務のほかに、代理事務など広い範囲の付随業務を営むことができますから、これらの業務から得る手数料と、会社固有の財産を運用して得る利益が相まって、会社の収益は次第に増大していくものと思われます。まして、信託の効用は実に広大無辺でありますから、将来、一般社会に信託への理解が進むにつれて、信託会社が密接なものとして大いに利用されるようになることは明らかであり、かつ付随業務についても十分に開拓の余地があります。さらに、現存する信託会社の数は極めて少ないうえ、会社を新設するには、監督官庁の周到な審議によって免許を受けなければなりません。これらを総合して考えますと、信託会社の将来は実に洋々たるものであり、次第に相当の営業成績をあげていくことに疑問の余地はありません。
以上の次第でありますので、社会に対する奉仕の心に訴えてわれわれの会社の将来性をご評価いただき、皆さまに奮って会社設立にご賛同いただけることを心から願うものであります。
大正14年4月
中央信託銀行株式会社

歴史的な調印式(左から曾志崎第一信託銀行社長、
金子東海銀行頭取、永井日本証券代行社長)
設立趣意書
このたび、株式会社東海銀行、第一信託銀行株式会社および日本証券代行株式会社は、相提携して、新たに信託銀行を設立することに、意見の一致をみました。
新信託銀行の構想は、覚書※の概要にありますとおり、株式会社東海銀行、第一信託銀行株式会社および日本証券代行株式会社が、それぞれの信託業務と証券代行業務を持ち寄り、3社が中心となって、これに株式会社日本興業銀行、株式会社第一銀行ならびに証券界にもご協力いただき、また、さらに名古屋地区においては、名古屋経済界との密接な協力関係をバックとして、清新強力な信託銀行をつくりあげてゆこうということであります。
ここ数年来、わが国の経済は比較的安定しながら、目覚しい成長を遂げてまいりました。これに伴い、貯蓄の形態も多様化し、また一方、安定的な産業資金供給の重要性がますます増加し、さらに加えて、適切な財務管理をはかるため新しい信託的サービスへの要求が強まってまいっておりますので、こうした情勢に応えて、新しい強力な信託銀行をつくることは国民経済のためにも意義のあることと思っております。
私ども、関係者は、それぞれの特長と持味を生かし、協力一致して、信託業務本来の機能を遺憾なく発揮して、国民大衆の要望に応えつつ、わが国経済の発展に寄与してまいりたい所存であります。
昭和37年5月
- 覚書の骨子は次のとおり
- 新信託銀行は専業信託銀行の業務を営むことを目的とする
- 新信託銀行の商号は「中央信託銀行株式会社」とする
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新信託銀行の資本金は25億円とし、その出資は次のとおりとする
東海鋹行側:1,000,000,000円
第一信託銀行側:500,000,000円
日本証券代行側:500,000,000円
白根清香氏:250,000,000円
鈴木亨市氏:250,000,000円 - 本店は東京都中央区京橋1丁目3番地ノ1(新八重洲ビル内)におく
- 新信託銀行設立は昭和37年6月上旬、営業開始は8月上旬、また3社営業譲渡の実行日は12月1日の予定とする
【参考】米山梅吉のラジオ放送
三井信託社長・米山梅吉は、1926年4月17日、信託協会の会長として放送開始直後のラジオ番組で「信託の話」を講演。信託の仕組みと意義について具体的な例をあげてわかりやすく解説し、その普及発展に尽力しました。
